ブログ

法律関連
2019/04/27

働き方改革関連「時間外労働の上限規制」

2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」。労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進することを目的としており、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などを主な内容としております。過去の事務所通信等でも何度か紹介させていただきましたが、今回は、「時間外労働の上限規制」と、について、もう少し掘り下げてご紹介させていただきます。

1.時間外労働の上限規制

〔上限規制の概要〕

長時間労働を防止する為、今回の法改正により現行の時間外労働規制の仕組みを改め、①時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間とした上で、臨時的な特別の事情がなければ超えることはできないことし、②臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、単月100時間未満(休日労働含む)を超えることはできないこととされます。さらに原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとなります。【図表1】参照。

この残業時間の上限を法律で規制することは、1947年に制定された「労働基準法」において、制定以来の大改革となります。従来も、月45時間、年360時間という数字は、行政の指導として上限がありましたが、これは、強制力のないもので、行政が行うことができるのは「助言及び指導」のみでした。しかし、今回の法改正により、法律で残業時間を定め、原則これを超える残業は出来なくなり、これに違反する場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の刑罰が科されることになります。

 

 

【図表1】時間外労働の上限規制

 

〔施行日と適用日〕

この新法の施行日は平成30年4月1日とされておりますが、中小企業への適用は1年の猶予があり、平成32年4月1日からとされています。但し、この上限規制には自動車運転の業務や建設事業など、さらに適用を猶予・除外する事業・業務が設けられております。【図表2】参照。

各事業所における実際の適用日については、現在締結している時間外労働・休日労働に関する労使協定(以下、「36協定」という。)の有効期限内については、新法は適用されず、新しく再締結する労使協定よりその適用が開始されます。

例えば毎年10月1日に36協定を締結している中小企業においては、平成32年10月1日から新法が適用されることとなります。 なお、この時間外労働の上限規制が制定されたことにより、36協定の様式も改正されましたが、新様式の適用も、新法が適用されるタイミングとなります。

 

 

【図表2】上限規制の適用が猶予・除外される事業・業務

 

〔法律による上限(例外)について〕

それでは、法律による上限(例外)、つまり臨時的な特別な事情により月45時間を超えてしまう場合についての考え方を詳しく見ていきます。

【図表3】は1年間の時間外労働および休日労働(以下、「時間外労働等」という。)の時間数を月ごとに記した例です。この例のように時間外労働等の時間が月45時間を超える月数は1年間で6回までとなります。

この例では3月の時間外労働等の時間は100時間となっております。新法により「複数月の平均が80時間以内」としなければなりませんので、翌月4月は、60時間以内に抑えなくてはなりません。複数月で80時間以内ですので、この2ヶ月間の平均だけでなく、3~6か月間のどの平均をとっても80時間以内となるよう管理が必要となります。

 

 

【図表3】法改正後の残業時間のイメージ

 

〔月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ〕

時間外労働に関連する法改正といえば、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の50%への引き上げも大きく関連してきます。大企業については既に平成22年から適用されておりましたが、中小企業への適用は猶予されておりました。この度の法改正により、平成35年4月1日をもって、その猶予が廃止されます。

長時間労働による割増賃金の企業への負担がますます大きくなることに加え、近い将来、未払い残業代の遡及請求権も2年から5年に変更される動きもありますので、いち早く長時間労働の改善を進める必要があります。

 

 

社会保険労務士 神田辰朗